リスニング指導における2つの基礎理論

ここでは、上田メソッド(理論とエビデンスに基づいた効果的なリスニング指導法や学習法)の基礎となる2つの理論を紹介します。

 

References末尾参照

❶ 言語理解に関する理論 Anderson2010

Anderson2010)の言語理解に関する理論では、最下層からperception(音素の識別)、
parsing(文法的区切れ)、utilisation(話者の意図理解)と3段階あり、
相互に関係しているとされています。

 

Anderson2010)は、言語理解には下から
PerceptionParsingUtilisationの3段階があると唱えています。

Perception(音素の識別)とは何か?

言語理解に関する理論における最初の段階は、perception(音素の識別)です。
中級学習者だけでなく初級学習者の多くがこの段階で、わからなくなっています。池村(2003)は、日本人英語学習者の聞き取り
困難原因として、音声による単語認知が、文字によるそれより大きく劣ると述べています。文字による認知(見てわかる)が平均79%で
あるのに対して、音声による認知(聞いただけでわかる)は平均26%と報告しています。

音素とは音の最小単位です。文字であれば文字と文字の境界は非常に明らかですが、リスニングでは前後の音素に影響を受けて、元々の
音素は様々な形に変化します。
その種類は多岐に渡り、同化(assimilation)や 短縮形(contraction)、削除(deletion)、脱落(elision)、 連結(liaison/ linking) 、
変形(reduction)といった様々な種類があります(Yoshida, 2002, p.32)。詳しくは、英語のサイトに記載されている説明や例を参考にして
下さい。

Parsing(文法的区切れ)とは何か?

言語理解に関する理論におけるperception(音素の識別)の1つ上の段階は、parsing(文法的区切れ)です。
この段階では、文法的な区切れをひとつのかたまりとして聞けるようになることで、リスニング能力はさらに向上していきます。

 

以下は、リーディングによる例ですが、文法的な区切れが意味の理解に影響を及ぼすことが理解できる例です。

以下はリーディング分野の研究ですが、Graff and Torrey1966)が興味深い研究結果を報告しています。

同じ内容であっても、正しい文法的な区切れである〈 A形式 〉の方が、非文法的な区切れである〈 B形式 〉より理解度が高かったのです。
同様の研究結果は、Jarvella1971)やCaplan1972)、Aaronson and Scarborough1977)も報告しています。

 

このように、文法的な句切れの位置が意味の理解に重要な影響があることがわかっています。

Utilisation(話者の意図理解)とは何か?

言語理解に関する理論における最終段階は、utilisation(話者の意図理解)です。
この段階では、聞き手は「何が発話されたのか」ではなく、話者の意図や真意を理解することが必要になります。
というのは、「実際の発話」と「話者の意図」は、必ずしも一致するとは限らないからです。

❷ 情報処理に関する理論 Schneider and Shiffrin1977

Schneider and Shiffrin1977)は、人間の情報処理には下からControlled processing
(制御過程)とAutomatic processing(自動過程)の2段階があると唱えています。

制御過程は意識しなければできない行動で、それを繰り返し行うことで、徐々に
意識しなくてもできる自動過程へと移行していく、としています。

 

上記の言語理解と情報処理に関する2つの理論に基づくと、音素の識別に関する訓練を繰り返し行うことで、徐々に音素の識別が自動化され、
それにより文法的区切れを意識してリスニングできる余裕が生まれることになります。同様に、文法的区切れを意識してリスニングを繰り返し
行うことで、徐々に文法的句切れの認識が自動化され、それにより、話者の意図や真意の理解に集中する余裕が生まれてくることになります。

 

ここまでで、上田メソッドの基礎となる2つの理論を紹介しました。
次に、上田メソッドを適応することができるかどうか、つまり学習者が中級学習者であるかどうかを測定して下さい。

学習者のリスニング能力およびメタ認知能力の測定・把握

1)リスニング能力の測定

上田メソッドの効果が統計学的に検証されているのは、中級学習者(TOEIC®のリスニング・テストの得点が166〜330点の学習者)
ですので、 まず学習者が中級学習者に該当するかを測定する必要があります。上田メソッドでは、TOEIC®のリスニング・テストを
標準テスト*1として用いていますが、英検やTOEFL®などを用いて学習者のリスニング能力を測定することもできます。その場合は、
以下の表を参考にして下さい。

 

上田メソッドにおいて、「標準テスト」とは、国際的に認知されており、安価もしくは無料で入手可能で、なおかつCEFRと互換性があるテストを
意味します。

 

CEFRのレベル」と「各種英語検定試験の得点」の比較

「CEFRのレベル」と「英語検定試験の得点」の比較

 

2)メタ認知能力の測定

標準テストを用いて学習者のリスニング能力を測定するのと同時に、MALQを用いて学習者のリスニングにおけるメタ認知能力も必ず測定
しておいて下さい。

 

学習者のリスニング能力が中級学習者であれば、上田メソッドを適応して指導することができます。
一方、学習者のリスニング能力が初級学習者 (TOEIC®のリスニング・テストの得点が0〜165点の学習者)であった場合、初級学習者を
対象とした実験が未だ行われていないため、上田メソッドを適応して指導してもその効果には科学的な根拠はありません。しかし、
理論的には以下の「音素の識別」段階でのつまづきかどうか診断する方法と指導法が有効と考えられます。

同様に、学習者のリスニング能力が上級学習者(TOEIC®のリスニング・テストの得点が331〜495点の学習者)であった場合、
上級学習者を対象とした実験が未だ行われていないため、上田メソッドを適応して指導してもその効果には科学的な根拠はありません。
しかし、理論的には以下の「話者の意図理解」段階でのつまづきかどうか診断する方法と指導法と合わせて、メタ認知の知識の指導が
有効と考えられます。

「学習者がどの段階で何故理解できなくなったのか」をピンポイントで指導

Anderson2010)の言語理解に関する理論に基づいて、学習者がどの段階で何故理解できなくなったのかがわかり、診断的かつ具体的な
指導ができます。

「音素の識別」段階でのつまずきかどうか診断する方法と指導法

診断方法

答えがわからなかったり、間違えた場合…

ディクテーションをさせる。

手順1

ディクテーション

解答後、答えがわからなかったり、間違えた学習者に、正答するために必要な箇所のディクテーションを
させます。

*聞く回数は5回までと指導します。これはシャドーイングの研究結果ですが、5回までは聞く回数に比例して
統計学的に有意差(= 科学的な効果)があるとの研究結果が報告されています(Hori, 2007)。

*ディクテーションに必要な時間やスピードは学習者によって大きく異なるので、正答するために必要な箇所の
ディクテーションを予め授業や講義の前に課題としてさせてくる「反転授業」にすることで、授業や講義時間を
非常に有効に使えます。

 

灰色の語句は、正答するために必要な内容語です。
     で囲まれた語句は、その他の聞き取るべき内容語です。

 

例)

Where is this conversation taking place?

正答

AIn an office
BIn an airplane
CAt a school office
DOn a train platform

 

Man:What did you do with the customer record I gave you about an hour ago?
They were on my desk earlier this morning.

上記の部分までが、正答するために最低限必要な内容語を含む部分であるので、
学習者の能力や授業時間に応じて、ここまでのディクテーションでも可。

Woman:Oh, I took them to the copy room and copied them. I put them back on your desk.

Man:Oh, good. I thought you might have sent them to our customers. I still need to make some changes before

I take them to the post office.

Stafford. (2009)

 

【能力別 ディクテーション用紙】

手順2

ディクテーションが終了したら、ディクテーションさせた部分のみのオーディオ・スクリプトを与え、
聞き取ることができなかった内容語に蛍光ペンでをつけさせます。

正答するために必要な内容語が書けなかった場合、以下の2つの原因が考えられます。

 

1.語彙力が不足していたことが原因

聞き取ることができなかった単語を見てもわからなかった場合、それはリスニング能力の問題ではなく、語彙力不足が
原因です。この場合は、単語の意味や品詞の学習指導をします。

 

2.文字情報処理能力と音声情報処理能力に乖離があることが原因

聞き取ることができなかった単語を見てわかる場合、つまり、見ればわかるが聞いただけではわからなかった場合は、
文字情報処理能力(見たらわかる)と音声情報処理能力(聞いてわかる)に乖離があることが原因です。

指導法
手順1

内容語と機能語

まず語彙が、内容語と機能語の2種類に分類されることを説明します。目的は、リスニングの際のストレスと
緊張を軽減するためです。日本人英語学習者の多くは、リスニングの際、一言一句、全てを聞き漏らすまいと
神経を集中させ、緊張する傾向があります。

しかし、実際には全ての語句を聞き取らなくても、内容は理解できるのです。そのことを学習者に指導して、
リスニングの際のストレスと緊張をまず軽減させます。

内容語や機能語は、リスニング能力を効果的に向上させるために非常に重要な知識です。

内容語とは

「内容を理解するために必要な語」です。上田メソッドにおける内容語は、以下の5種類としています。

  1. 名詞
  2. 動詞
  3. 形容詞
  4. 副詞
  5. 5W1Hwho, when, where, what, why, how

機能語とは

「聞き落しても、内容の理解に支障のない語」です。上田メソッドにおける機能語は、内容語以外の語と
しています。

 

例)チチ キトク スグ カエレ

 

これは典型的な昔の日本の電報文ですが、私たちは日常このようには発話しません。

チチガ キトクデスノデ スグニ カエレ/カエッテキナサイ」が、日常の発話に近いでしょう。
電報料金は、 文字数に応じて課金されるので、内容の理解に支障のない機能語が削除され
「チチキトクスグカエレ」と送信したのです。

私たちは、内容語や機能語に関する知識がなくても、どの語が意味の理解と密接に関与しているかの知識は
備わっているのです。

内容語と機能語はどの言語にもあり、英語にも応用可能です。このように、全ての語句を聞き取らなくても
内容を理解できるということを最初に指導することは、リスニングの際のストレスと緊張を軽減させる効果が
あり、とても重要です。

手順2

ディクテーションをさせた後、ディクテーションさせた部分のみのオーディオ・スクリプトを与え、
聞き取ることができなかった内容語に蛍光ペンでをつけさせます。聞き取ることができなかった内容語に
読んでも(見ても)わからなかった内容語があれば赤で丸をつけさせ、品詞と意味を各自で調べるよう指導を
します。学習者の能力や授業時間に応じて、教員が指導しても良いでしょう。

→この場合、聞き取ることができなかった原因は語彙力不足。

読めば(見れば)正答に必要な内容語は全てわかる、という場合は手順3に移ります。

手順3

文字情報処理能力と音声情報処理能力に乖離があることが原因の場合

読めば(見れば)わかるということは、文字で情報が提示された場合、意味のある語として情報処理される
ことを意味しています。

 

しかし、同じ語であっても、音声で情報が提示された時に意味のある情報として処理されない場合は、音声情報
処理能力と文字情報処理能力に差があることを意味しています。

 

そこで、音声情報と文字情報の融合を目的として、聞き取ることができなかった内容語を含む文を見ながら、
その部分の音声を最低でも3回聞くように指導します。この3回という数字には統計学的な根拠はありませんが、
習熟度にもよりますが学習者が飽きずに連続して聞ける回数だと思います。この時、聞くのは最初から最後まで
全部ではなくて、聞き取ることができなかった内容語を含む文だけで構いません。

手順4

音声情報報処理能力の養成

最後に、見なくてもわかることを目的として、聞き取ることができなかった内容語を含むその文のみの音声を、
オーディオ・スクリプトを見ずに聞くことを最低でも3回聞くように指導します。この3回という数字には
統計学的な根拠はありませんが、習熟度にもよりますが学習者が飽きずに連続して聞ける回数だと思います。

この時、学習者には目を開けておくように指導することをお勧めします。というのは、私の体験からは、
学習者の中には不届き者がいて、時々この時間に居眠りをする者もいるからです。もっとも、目を開けている
からといって、学習者が必ず音声情報処理能力の養成に集中しているかどうかは、わかりませんが(笑)。。。

学習者全員がスマートフォンやタブレット、イヤホンを持参して受講できるような授業形態の場合は、
学習者それぞれに、自分に必要な箇所のみを各自のペースで聞くように指導します。そのような環境にない
場合は、教員が全体の音声を1度再生します。その際、聞き取ることができなかった内容語を必ず見ながら
聞くように指導します。残りの2回は、同様にして聞くように、課題として指導します。


【問題形式別 指導法】

「文法的区切れ」段階でのつまずきかどうか診断する方法と指導法

診断方法

「音素の識別」段階で、正答するために必要な内容語を全て聞き取ることができていたのにも関わらず、
答えがわからなかったり、間違っていた場合…

正答するために必要な内容後を含む英文を与え、
文法的区切れであると思うところに斜線を入れさせてみて下さい。

文法的な区切れではない誤った箇所に斜線が記入されている場合、
文法でつまづいていることが考えられます。

指導法

日本人英語学習者はその大半が「音素の識別」段階でつまづいており(Ikemura, 2003)、「文法的区切れ」段階での
つまづきはそれに比較すると少ないのですが、文法的な区切れではない誤った箇所に斜線が記入されている場合、正しい
文法的知識を指導する必要があります。

 

例1)

誤:I/ couldn’t/ book/a hotel/ which/ I /wanted/ to/ stay.

 

ほぼ全てに渡り各語に斜線がいれられており、これは大まかな文法的な区切れがどこであるのかが、わかっていないことが
考えられます。これでは、「木を見て森を見ず」のごとく、正答に必要な内容語の「音素の識別」はできても、そのひとつ
上の段階である「文法的区切れ」でわからなくなっていることが考えられます。正答に必要な内容語の音素の識別ができる
ようになったら、次は、以下のように少しずつ大きな文法的な区切れで聞き取るようにとの指導をします。

 

正:I couldn’t book a hotel/ which I wanted to stay.


例2)

誤:What goes/ around/comes/ around.

 

この文では、goes aroundcomes aroundはそれぞれ、ひとかたまりであると認識する必要があります。その上で、
以下のように What goes aroundまでが主部であり、comes aroundが述語であると、少しずつ大きな文法的な区切れで
聞き取るようにとの指導をします。

 

正: What goes around/ comes around.

(意味:因果応報)

 

 

Reference末尾参照

「話者の意図理解」段階でのつまずきかどうか診断する方法と指導法

診断方法

「音素の識別」段階で、正答するために必要な内容語を全て聞き取ることができており、なおかつ、
「文法的区切れ」段階でもある程度のまとまりを持った文法的区切れの位置に正しく斜線が記入されていたのにも関わらず、
答えがわからなかったり、間違っていた場合…

聞き取った内容を、日本語に「意訳」させる。

「意訳」が正しくない場合、「話者の意図理解」段階でつまづいていることが考えられます。

指導法

正答するために必要であった「背景的知識」や「推測すべき内容」などを適宜、説明します。

 

例1) Were you born in a barn?

 

例えば、英国では ‘Were you born in a barn?’ という疑問文では、相手が「納屋で生まれたかどうか」を尋ねているのでは
ありません。実際には「(入室後は)ドアを閉めなさい!」という意味(嫌味)なのです。

イギリスの納屋画像

左の写真のように、伝統的な納屋にはドアがないものが多いのです。
ですので、もし、納屋で生まれ育った者がいるのならば、その人にはドアを
開閉する習慣は当然身についていません。よって、部屋に最後に
入室したのにも関わらず、ドアを閉めない人に対して、
Were you born in a barn?と発話されるこの文は、実は実際には「(入室後は)
ドアを閉めなさい!」という皮肉を込めた意味になるのです。

ちなみに、これは私がイギリスで大学院生時代に指導教官から実際に
言われたことです。しかし、私には当時、上記のような背景的知識が
なかったので、話者の意図が理解できず ”No, I was born at a hospital in Japan.”
と返答してしまいました。

このように、言語理解の最終段階で、話者の真意を理解するために「背景的知識」や「推測」が必要な場合もあります。


例2)

3月末の大学の教員会議で。
教員A:「4月は、何日からですか?」
教員B:「1日からです。」
教員A:「そうきますか。」

実は、教員Aの真意は「前期は、何日から始まりますか?」だったのです。
どの月も必ず1日から始まるのでこのような質問には、答える前に話者の
真意を聞き手が推測する必要があったのです。しかし、教員Bに十分な
推測能力がなかったために、最終段階である「話者の意図理解」段階で
理解に至らなかった例です。

実は、この教員Bは私だったのですが、「どの月も1日から始まるのに
変なことを聞くなぁ」と思いながらも「1日からです」と答えた瞬間、
「ハッ!!」と話者の真意に気がついたのですが、「時、既に遅し」で
「そうきますか」と言われてしまい、大変気まずい思いをしてしまいました。

このように「音素の識別」段階や「文法的区切れ」段階で問題がなくても、「話者の意図理解」段階で理解に至らない
場合もあります。そういった場合は、正答するために必要であった「背景的知識」や「推測すべき内容」などを適宜、
説明・指導する必要があります。


【リスニング・ストラテジー*別 指導法】

 

「上田メソッド」では、リスニング・ストラテジーを「リスニング能力を向上させるためのコツ」としています。「上田メソッド」では、
具体的なリスニング・ストラテジーとして、メモの取り方、スキミング、談話標識、スキャニング、推測、背景的知識、予測、文法、
余剰性を紹介します。

リスニング・ストラテジーの指導

上田メソッドでは、中級学習者(TOEIC®のリスニング・テストの得点が166〜330点の学習者)を対象としているため、まずTOEIC®
リスニング・テストを実施してみて、学習者のリスニング能力を測定・把握する必要があります。
学習者のTOEIC®のリスニング・テストの得点が166〜249点であれば、ディクテーション訓練の方がより効果的であると統計学的に
有意差がある結果が得られているため、この場合、リスニング・ストラテジー*の指導は科学的には効果的ではありません。しかし、
TOEIC®のリスニング・テストの得点が166〜249点の学習者にリスニング・ストラテジーの指導を禁ずるものではありません。

 

「上田メソッド」では、リスニング・ストラテジーを「リスニング能力を向上させるためのコツ」としています。「上田メソッド」では、具体的な
リスニング・ストラテジーとして、メモの取り方、スキミング、談話標識、スキャニング、推測、背景的知識、予測、文法、余剰性を紹介します。

 

学習者のTOEIC®のリスニング・テストの得点が250〜330点の学習者であれば、ディクテーション訓練よりもリスニング・ストラテジー
訓練の方がより効果的であると統計学的に有意差がある結果が得られているため(Ueda, 2015, p.136)、以下のリスニング・ストラテジーを
指導します。なお、1.〜4.はこの順番で指導することが望ましいですが、5.〜以降はどの順番でも構いません。

 

1. メモの取り方

2. スキミング

3. 談話標識

4. スキャニング

5. 推測

6. 背景的知識

7. 予測

8. 文法

9. 余剰性

 

1. メモの取り方の指導法

音声による伝達速度は一般的に、筆記による伝達速度の約7倍といわれて
います。当然のことながら、発話と同じスピードで書き留めていくことは
できません。人間の短期記憶容量は非常に小さく、また、保持時間も
非常に短いので聞いた瞬間に理解できたとしても、それら全てを
記憶しておくことは、通常はとても難しいことなのです。

 

例えば、書き留めることなしに、10人の学習者にそれぞれの好きな色や
食べ物、趣味、最近読んだ本などを日本語で発表してもらいます。
次に、最後の学習者の発表後に全員の好きな色や食べ物、趣味、
最近読んだ本について書き出してもらいます。
そうすることで、「聞いて理解できる」ということと、「記憶できる」
ということが必ずしも同じではないことを理解させ、指導します。

 

その上で、「リスニング能力向上」には「メモの取り方」がとても重要であることを指導します。音声による伝達速度は
一般的に、筆記による伝達速度の約7倍といわれていますので発話と同じスピードで書き留めていくことはできません。
ですので、省略や短縮、数字、記号などを使って、記憶できないことを紙の上に書き留めるというリスニング・ストラテジーを
指導します。 メモは本人が書き、本人のみが見るので「どのように書き留めたらよいのか」に関しては特に定まったルールや
規則はありません。但し、漢字を用いることは、メモを取ることの本質(素早く音声を文字化すること)から逸脱するので、
メモを取る際には漢字は使わないように指導することが重要です。

 

具体的には、以下の例を参考にして下さい。

 

2. スキミングの指導法

リスニングにおけるスキミング(Skimming)とは、「概要や大意を把握する」ということです。概要を把握する方法はいくつか
ありますが、そのひとつに、話者が話す談話標識(Discourse Marker)を手掛かりにします。上田メソッドでは談話標識を
「話の展開や流れを示す語句」と定義しています。詳しくは、3.談話標識の指導法をご覧下さい。

 

以下は、講義冒頭で、その講義の概要や大意を把握することができる談話標識(赤字)の例です。

 

例)

  • Today our topic is
  • The first thing to say about
  • Let me begin by asking you to think about
  • What I would like to emphasise today is
  • We’re going to look at
  • Today, I’m going to talk about
  • My first question to you today is
  • We’re going to focus on
  • Today, We’re going to discuss
  • We’re going to explore

 

また、TVニュースの場合は、映像やテロップから内容の概要や大意を把握することができます。ラジオやアナウンスの場合は、
複数の内容語から推測をもとに内容の概要や大意を把握することができます。

3. 談話標識の指導法

上田メソッドでは談話標識を「話の展開や流れを示す語句」と定義しています。

 

「え〜」「う〜んと。。。」などの語句を談話標識とする、という考えやサイトもありますが、これらの語句は英語ではfiller
呼ばれており、上田メソッドではこれらの語句は談話標識ではありません。上田メソッドでは談話標識を「話の展開や流れを
示す語句」と定義しています。

 

談話標識を指導する最大の効果は「途中で聞くのを諦めてしまうこと」を少なくすること、聞き続ける動機を持たせることです。
談話標識の知識を指導することで、例え途中でわからなくなってしまっても、話の流れが切り替わったところからでも聞いて
みようという気持ちにさせる効果が期待できます。

 

例えば、For exampleと聞こえてきたら、「例」の説明に入ることがわかります。通常、「例」を話す時は、今まで説明してきた
ことが、さらに分かりやすく説明されます。 ですので、途中でわからなくなってしまっていても、For exampleからでも聞き続ける
動機を持たせる効果が期待できます。

 

また、最後までわからなかったとしても、まとめを表す談話標識の知識を指導することで、「まとめの部分では、それまでの
内容が簡略化され、もう一度繰り返されるのだ」と理解させ、まとめの部分だけでも聞く、という動機を持たせる効果が
期待できます。

 

談話標識は多岐にわたるので、学習者の能力に応じて指導する量を調整する必要があります。以下は、談話標識のいくつかの
例です。

 

〈 構成を表すもの 〉

  • Today’s lecture will be divided into two parts:
  • Today, you’ll hear three contrasting points of view about…
  • We’ll look at two aspects of
  • There are four steps in…
  • I’m going to talk about thee techniques
  • We’ll look at five types of

など

 

〈 順番を表すもの 〉

  • Firstly
  • Secondly
  • Thirdly
  • Finally
  • Lastly

など

 

〈 話の流れが反対方向に進むことを表すもの 〉

  • However
  • But
  • On the other hand
  • In contrast
  • Conversely

など

 

〈 話の流れが同じ方向に進むことを表すもの 〉

  • And
  • Furthermore
  • Moreover
  • In addition
  • Also
  • In the same way
  • Similar to…/Similarly

など

 

〈 話が次に進むことを表すもの 〉

  • Next
  • Then
  • Moving on
  • Let’s move on to…
  • Another point/idea is…
  • Now

など

 

〈 例の説明が始まることを表すもの 〉

  • For example
  • For instance
  • ….such as…
  • An example of this is…
  • One example would be…
  • Let me give you an example of this…

など

 

〈 まとめを表すもの 〉

  • To sum up
  • To summarise
  • To conclude
  • Today’s main point(s)…
  • OK, so today we’ve looked at…
  • Let me wrap up with…

など

4. スキャニングの指導法

リスニングにおけるスキャニング(Scanning)とは、「特定の情報を得る」「情報の取捨選択をする」ということです。

 

まず、設問がある場合は、設問文の中の内容語に初級や中級学習者であれば蛍光ペンでハイライトして、どのようなことが
問われるのかを事前に把握するよう指導します。中級学習者でも正答率が一つの目安として80%を超えたり、上級学習者で
あれば、ハイライトをさせる必要はなく、設問文の中の内容語を注意して読み、どのようなことが問われるのかを事前に
把握するよう指導します。

 

次に、ハイライトすべき内容語をOver Head Camera(書画カメラ)などで提示し、誤った語にハイライトしている学習者が
いれば、この段階で、正しく内容語にハイライトするよう指導します。

 

そして、ハイライトした内容語を見ながら解答に必要な音声(会話や講義、アナウンスなど)を聞かせます。正答に必要な
内容語、つまり答えは当然のことながら、音声に含まれていますのでハイライトした内容語が聞こえてきたら、特に注意して
聞くように指導します。

 

スキャニングの指導法 多肢選択形式問題の場合

 

スキャニングの指導法 True/False形式問題の場合

 

スキャニングの指導法 Open Questions形式問題の場合

5. 推測の指導法

リーディングでは、「行間を読む」ことが時として必要なように、リスニングにおいても、必要な情報が音声では全て与えられて
おらず、「推測」が必要な場合もあります。Anderson2010)の言語理解に関する理論においては、最終段階であるutilisation
(話者の意図理解)段階で必要とされるストラテジーです。

 

以下は、正答である “bathroom”という単語は一度も出てきませんが、steam, soap, towel, splashという語から推測することにより、
“bathroom”であると答えることができます。

 

この段階では、学習者に「リスニングというものは、単純に音声に頼るものばかりではなく、『推測』というストラテジーが
必要な場合もある」と指導することが重要です。

 

スキャニング+推測+背景的知識を活用した指導法

 

推測の指導の次に、「推測の修正」を指導します。リスニングの際、リスニング・ストラテジーの1種である「推測」を
活用しながら聞けるようになれば、次の段階として、推測した内容がおかしいなと思ったら、すぐに考えを切り替える、という
「推測の修正」が必要です。上級学習者は、「推測の修正」ができますが、中級学習者以下では初めに推測した内容を最後まで
そのままおかしいなと思っても修正しない、つまり、一度思い込んだら内容を変えないという特徴があります。

 

この段階では、学習者に「推測した内容がおかしいなと思ったら、すぐに考えを切り替える」と指導することが重要です。

 

具体的には、MALQの中の以下の項目をリスニングの際、学習者に意識するよう指導します。

 

13. As I listen, I quickly adjust my interpretation if I realise that it is not correct.
推測した内容がおかしいなと思ったら、すぐに考えを切り替える。

 

推測の修正の指導法

6. 背景的知識の指導法

「背景的知識」(Background Knowledge)とは、有体にいえば「知っていること」「あることについての知識」を意味します。
Anderson2010)の言語理解に関する理論においては、最終段階であるUtilisation(話者の意図理解)段階で必要とされる
ストラテジーです。

 

perception(音素の識別)やparsing(文法的区切れ)の段階でのつまづきがなくても、あることについての知識、すなわち
「背景的知識」が欠落していると、最終段階であるutilisation(話者の意図理解)の段階で理解できなくなる、ということが
発生します。「背景的知識」の興味深い点は、あることについて、例え日本語で読んだり、聞いたりして獲得した知識であっても、
英語でリスニングをする時にストラテジーとして活用できる、ということです。ですので、学習者には、一見直接的には関係が
ないように思えますが、例え日本語であっても色々な本や新聞を読んだり、ニュースを聞いたり、あちこちに旅行に行ったり、
多くの人と話したりして普段から見聞を広めることを指導することが重要です。

 

具体的には、MALQの中の以下の項目をリスニングの際、学習者に意識するよう指導します。但し、学習者の能力に応じて
指導する項目数を調整する必要があります。

 

7. As I listen, I compare what I understand with what I know about the topic.
自分が知っている内容と比較しながら聞く。
9. I use my experience and knowledge to help me understand.
自身の経験や知識を、理解促進のために用いる。
10. Before listening, I think of similar texts that I may have listened to.
聞く前に、以前聞いたことがある同様の内容を思い出すようにする。
17. I use the general idea of the text to help me guess the meaning of the words that I don’t understand.
わからない語彙を理解する為に、一般的な知識を用いる。
19. When I guess the meaning of a word, I think back to everything else that I have heard, to see if my guess makes sense.
わからない語彙を理解する為に、今迄聞いた事や見た事を用いる。

 

スキャニング+背景的知識を活用した指導法

 

スキャニング+推測+背景的知識を活用した指導法

7. 予測の指導法

リスニングにおいて「予測」とは、「これからどんな内容を聞くのか、予め考えてから聞くこと」を意味します。タイトルや
写真、挿絵、グラフなどが与えられていれば必ず目を通し、学習者に「自身の経験や知識をもとにこれからどんな内容を聞くのか、
考えてから聞くこと」を指導することが重要です。

 

「予測」と「背景的知識」はお互いに密接に関与していて、以下の予測の指導法は、背景的知識の指導法としても活用できます。

 

予測の指導法

8. 文法の指導法

全ての語句がハッキリ、明確に発音されるわけではなく、また静かな教室や試験会場とは異なり、実社会では周囲の雑音などで
音声が明瞭に聞き取れない場合もあります。ハッキリ、明確に発音されていなくても、文法の知識を活用することで、どのような
語が発話されていたのかを補うことは可能です。

 

リスニングにおける文法の重要性を指導する際、学習者に「リスニングというものは、単純に音声に頼るものばかりではなく、
『文法』というストラテジーを活用することで乗り越えられることもある」と指導することが重要です。

 

文法の指導法

9. 余剰性の指導法

上田メソッドにおける「余剰性」とは、「繰り返し」を意味します。

 

リーディングの場合は、読み手が自身の理解度に合わせてゆっくり読んだり、速読したりと読むスピードをコントロールできます。
また、理解できない箇所があれば、何度でも読み返すこともできます。

 

一方、リスニングの場合は、聞き手は発話のスピードをコントロールできません。また、理解できない箇所があっても、
録音された音声でない限り、その箇所をその場で何度でも、聞き直すこともできません。

 

ですので、音声による伝達方法の欠点を理解している良い話者は、重要な内容を繰り返したり、スペリング(綴り)を言ったり、
表現を変えたり、大きな声でゆっくり話したりするのです。

 

余剰性を指導する最大の効果は「途中で聞くのを諦めてしまうこと」を少なくすること、聞き続ける動機を持たせることです。
余剰性の知識を指導することで、例え途中でわからなくなっても、「繰り返し」を期待して、聞き続けてみようという気持ちに
させる効果が期待できます。

 

余剰性の指導法

リスニングにおけるメタ認知の指導

リスニング・ストラテジーとリスニングにおけるメタ認知について過去の研究から明らかになっていること

上田メソッドにおける「メタ認知」とは、「リスニングにおける自身の理解度をモニターし、足りない点を意識的に補うこと」を
指します。また、Oxford1990)は、 “metacognitive” を以下のように定義しています。

… “metacognitive” as beyond, beside, or with the cognitive, and “metacognitive strategies” as actions which go beyond purely cognitive devices, and which provide a way for learners to coordinate their on learning process.

 

References末尾参照

1. O’Malle 他(1989)の実験結果は、Anderson2010)の理論と類似していた。
  1. The students were listening for larger chunks, shifting their attention to individual words only when there was a breakdown in comprehension.
  2. They utilised both top-down and bottom-up processing strategies, whereas ineffective listeners repeatedly attempted to determine the meanings of individual words.
  3. They were adept at constructing meaningful sentences from the input received, even though the meaning slightly differed from that of the actual text.
  4. They applied their knowledge in three areas, i.e. world knowledge, personal knowledge and self-questioning.
2. 学習者が用いるリスニング・ストラテジーの種類や数は、リスニング能力レベルによって異なる。
  1. Skilled listeners report an automatic flow of the auditory stimulus, and they apply keywords, inferences and grammar strategies, whereas less-skilled listeners use keywords and translation strategies as well as contextual inferences DeFilippis (1980).
  2. DeFilippis (1980) also reports that skilled listeners utilise five times more visualisation, three times more French-English cognates and two times more role identification compared to their less-skilled counterparts. His study is followed by numerous researchers in the 1980s such as Murphy (1985), Chamot (1987), Murphy (1987), O’Malley (1987), Rubin (1988), Rubin, Quinn and Enos (1988) and O’Malley, Chamot and Kupper (1989)
  3. Ho (2006, p. 71) is consistent with the study by DeFilippis (1980) in which low-proficiency listeners significantly use the translation strategy more often than high-proficiency ones.
  4. Differences between More- and Less-Proficient Listeners (Berne, 2004, p. 525)

  5. Goss (1982) reports that competent listeners are capable of using many strategies and knowledge when to use them. Murphy (1985) also presents a different feature between more- and less-proficient listeners. The former tend to use a strategy called ‘wide distribution’ (an open and flexible use of strategies), whereas the latter frequently use a ‘text heavy’ strategy (which depends on the text and the consistent paraphrasing).
  6. O’Malley et al. (1989) observe that effective listeners utilise both top-down and bottom-up processing strategies, whereas ineffective listeners become embedded in determining the meanings of individual words (p. 434).
  7. O’Malley et al. (1989) also report that effective listeners notice when their attention falters and they make a deliberate effort to refocus on the listening task, whereas less-effective listeners encounter an unfamiliar word and make no effort to continue listening.

 

3. メタ認知能力は、リスニング能力レベルによって異なる。
  1. Other significant differences between effective and ineffective listeners are also observed with regard to self-monitoring (or checking one’s listening compre hension), elaboration (or correlating new information with prior knowledge or other ideas) and inference (or using information in a text to guess the meaning or complete the missing ideas) (O’Malley et al., 1989, p. 427).
  2. Graham, Santos and Vanderplank (2011) confirm that the use of metacognitive strategies increases with higher listening proficiency and that both inferencing and reliance on prior knowledge appear to become less prominent as learners’ listening proficiency increases.
  3. These results match the studies of Graham et al. (2008), Vogley (1995) and Vandergrift (1997, 1998).
  4. Hamamoto et al. (2013) report that the intermediate listeners show tendencies similar to the high-level listeners in the use of advanced organisation and self-management of metacognitive strategies, whereas they were similar to the low-level listeners in inferencing.
4. メタ認知に関する知識や使用は、リスニング能力向上に絶対に必要である。
  1. Metacognitive knowledge and its usage is the key to become a successful listener.
  2. DeFilippis (1980), O’Malley, Chamot and Kupper (1989), Goh (1997, 2002)and Vandergrift (2003),Baleghizadeh and Rahimi (2011), Ueda (2015)
  3. Flavell (1979, p. 906)defines metacognitive knowledge as ‘that segment of stored world knowledge that has to do with people as cognitive creatures and with their diverse cognitive tasks, goals, actions, and experiences’.
  4. Vandergrift et al. (2006)introduce a concrete metacognitive knowledge about listening.

  1. Chamot (1995, p. 18)describes that the failure of less-effective listeners to use appropriate strategies for the different phases of listening is due to limited metacognitive know
  2. Vandergrift, Goh, Mareschal and Tafaghodtari (2006)conduct a survey regarding metacognitive awareness in listening by administering the MALQ. They establish the following five factors based on the responses of 966 participants: 1) problem solving (guessing as well as monitoring the guesses), 2) planning and evaluation (preparing to listen and assessing success), 3) mental translation (translation from English to first language (L1)when listening), 4) person knowledge (confidence or anxiety and self-perception as a listener)and 5) directed attention (ways of concentrating on certain aspects of a task). These factors, which accounted for approximately 13% of the validity in the listeners’ performance, suggest that approximately 90% of success in listening is based on additional factors. This also indicates the complexity of listening comprehension in English.
  3. Lynch (2009, pp. 82-83)claims that this finding is the most tangible outcome from two decades of research regarding metacognitive strategies in listening.

リスニングにおけるメタ認知を指導する前に、学習者のリスニング能力を把握しておくことは大変重要です。

 

初級学習者中級学習者下半分の学習者

リスニング能力の向上に、メタ認知は不可欠ですが、初級学習者(目安として、TOEIC®のリスニング・テストの得点が165点以下の
学習者)や中級学習者下半分の学習者(目安として、TOEIC®のリスニング・テストの得点が166〜249点の学習者)には、一度に多くの
メタ認知スキルを指導しても、彼らの音素の識別(perception)能力がまだ制御過程にとどまっていると考えられるため、せっかく
指導されたメタ認知スキルが「消化不良」となる可能性が高いと考えられます。

 

そこで、初級学習者や中級学習者下半分の学習者にはMALQの中の以下の項目(Directed attention)をリスニングの際、意識するよう
指導します。但し、学習者の能力に応じて指導する項目数を調整する必要があります。

 

2. I focus harder on the text when I have trouble understanding.
わからなくなった時は、内容により集中する。
6. When my mind wanders, I recover my concentration right away.
集中力が散漫になったら、すぐにまた集中するようにしている。
12. I try to get back on track when I lose concentration.
集中力がなくなった時は、すぐにまた集中して聞くようにしている。

 

 

中級学習者上半分

中級学習者上半分(目安として、TOEIC®のリスニング・テストの得点が250〜330点の学習者)のレベルでは、彼らの音素の識別(perception)能力が、自動過程に移行しかけているのでメタ認知スキルを活用する余裕が出てきていると考えられます。

 

同時に、彼らの音素の識別(perception)能力が、まだ自動過程に完全に移行していないので一度に多くのメタ認知スキルを指導するのでは
なく、ここでも学習者の能力に応じて指導する項目数を調整する必要があります。

 

具体的には、MALQの中の以下の項目をリスニングの際、意識するよう指導します。以下の6つのメタ認知スキルは上田眞理砂の2つの
実験でリスニング能力向上者に共通して向上していたメタ認知スキルです(Ueda, 2015, p.81, p.118)。

 

Planning(計画)

1. Before I start to listen, I have a plan in my head for how I am going to listen.
聞く前に、どのようにして聞くのか頭の中でプランを立てる。
10. Before listening, I think of similar texts that I may have listened to.
聞く前に、以前聞いたことがある同様の内容を思い出すようにする。

 

Evaluation(内省)

14. After listening, I think back to how I listened, and about what I might do differently next time.
聞いた後に「どのようにして聞いたのか」「次回はこんな風に聞こう」等、内省する。

 

Problem Solving(問題解決)


7. As I listen, I compare what I understand with what I know about the topic.
自分が知っている内容と比較しながら聞く。
9. I use my experience and knowledge to help me understand.
自身の経験や知識を、理解促進のために用いる。
17. I use the general idea of the text to help me guess the meaning of the words that I don’t understand.
わからない語彙を理解する為に、一般的な知識を用いる。

 

 

 

上級学習者

上級学習者(目安として、TOEIC®のリスニング・テストの得点が331〜495点の学習者)のレベルでは、彼らの音素の識別(perception
能力が、ほぼ自動過程に移行しているのでメタ認知スキルを十分に活用する余裕が出てきていると考えられます。

 

しかし、一度の授業で多くのメタ認知スキルを指導するのではなく、数回にわけて指導する項目数を調整する必要があります。

 

具体的には、まず初級学習者や中級学習者下半分の学習者向けに指導するメタ認知スキルを指導し、次の授業で中級学習者上半分向けに
指導するメタ認知スキル
を指導します。その次の授業で、MALQの中の以下の項目をリスニングの際、意識するよう指導します。

 

Problem Solving(問題解決)

5. I use the words I understand to guess the meaning of the words I don’t understand.
知っている語彙を使ってわからない語彙を理解しようとする。
13. As I listen, I quickly adjust my interpretation if I realise that it is not correct.
推測した内容がおかしいなと思ったら、すぐに考えを切り替える。
19. When I guess the meaning of a word, I think back to everything else that I have heard, to see if my guess makes sense.
わからない語彙を理解する為に、今迄聞いた事や見た事を用いる。

 

Evaluation(内省)

20. As I listen, I periodically ask myself if I am satisfied with my level of comprehension.
リスニングの最中に、定期的に理解できているか自己チェックを入れる。
21. I have a goal in mind as I listen.
目的意識を持って聞いている。

上田眞理砂の実験から明らかになったこと(Ueda, 2015, pp.139-140

  1. 中級学習者下半分の学習者(TOEIC®のリスニング・テストの得点が
    166〜249点の学習者)には、ディクテーション訓練の方がより
    効果的。
  2. 中級学習者上半分の学習者(TOEIC®のリスニング・テストの得点が
    250〜330点の学習者)には、リスニング・ストラテジー訓練が
    より効果的。
  3. 複合指導法(ディクテーション訓練とリスニング・ストラテジー訓練の
    両方)は、中級学習者に効果がない。
  4. リスニング能力向上には、以下の3つのメタ認知能力が密接に
    関与していると考えられる。
    Planning, Evaluation*, Problem Solving
  5. メタ認知能力は、複合指導法では向上しないと考えられる。
  6. メタ認知能力は、特別な訓練なしでは向上しないと考えられる。
  7. メタ認知能力は、ディクテーション訓練では向上しないと考えられる。

 

EvaluationMALQでは、Planningと同一カテゴリーに分類されています。

●リスニング・ストラテジーについて過去の研究では、まだ明らかになっていないこと

  • 上級学習者が用いているリスニング・ストラテジーを初級学習者に指導することで、本当にリスニング能力が向上するのかということ。

 

 

 

 

References

Aaronson, D., & Scarborough, H. S. (1977). Performance theories for sentence coding: Some quantitative models. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 16, 277-304.

Anderson, J. (2010). Cognitive Psychology and Its Implications, 7th Edition. Freeman: New York.

Anderson, R. C., Reynolds, R. E., Schallert, D. L., & Goetz, E. T. (1977). Frameworks for Comprehending Discourse. American Educational Research Journal, Vol.14, No. 4, 367-381.

Baleghizadeh, S., & Rahimi, A. H. (2011). The Relationship among Listening Performance, Metacognitive Strategy Use and Motivation from a Self-determination Theory Perspective. Theory and Practice in Language Studies, Vol. 1, No. 1, 61-67.

Begler, D., & Murray, N. (2017). Symbols and Abbreviation. In M. Rost (Ed.), Contemporary Topics 3 Advanced 21st Century Skills for Academic Success, 4th Edition, USA: Pearson.

Berne, J. E. (2004). Listening Comprehension Strategies: A Review of the Literature.Foreign Language Annals, Vol.37, No.4, 521-531.

Buck, G. (2001). Assessing Listening. Cambridge: Cambridge University Press.

Caplan, D. (1972). Clause boundaries and recognition latencies for words in sentences. Perception and Psychophysics, 12, 73-76.

Chamot, A. U. (1987). The Learning Strategies of ESL Students. In A. Wenden & J.Rubin (Eds.), Learning Strategies in Language Learning (pp. 71-83).Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall.

Chamot, A. U. (1995). Learning strategies and listening comprehension. In D. J. Mendelsohn, & J. Rubin (Eds.), A Guide for the Teaching of Second Language Listening (pp.13-30). San Diego: Dominie Press.

Clement, J. & Lennox, C. (2009). Teacher’s Pack Contemporary Topics. Academic Listening and Note-Taking Skills. USA: Pearson Longman.

Cutler, A. (2012). Native Listening Language Experience and the Recognition of Spoken Words. England: The MIT Press.

DeFilippis, D. A. (1980). A Study of the Listening Strategies Used by Skillful and Unskillful College French Students in Aural Comprehension Tasks. Unpublished doctoral dissertation, University of Pittsburgh. USA.

Flavell, J. H. (1979). Metacognition and cognitive monitoring: a new area of cognitive-developmental inquiry. American Psychologist, 34/10: 906-11.

Gimson, A. (1980). An Introduction to the Pronunciation of English. 3rd ed. Hong Kong: Edward Arnold.

Goh, C. (1997). Metacognitive awareness and second language listeners. ELT Journal, 51 (4), 361-369.

Goh, C. (2000). A cognitive perspective on language learners’ listening comprehension problems, SYSTEM, 28, 55-75.

Goh, C. (2002). Exploring listening comprehension tactics and their Interaction patters. SYSTEM, 30, 2, 185-206.

Goss, B. (1982, April). Listening to Language: An Information Processing Perspective. Paper presented at the Annual Meeting of the Southern Speech Communication Association, Arkansas, USA.

Graf, P., & Torrey, J. W. (1966). Perception of phrase structure in written language. American Psychological Association Convention Proceedings, 83-88.

Graham, S., Santos, D., & Vanderplank, L. (2008). Listening comprehension and strategy use: a longitudinal exploration. SYSTEM, 36, 1, 52-68.

Graham, S., Santos, D., & Vanderplank, L. (2011). Exploring the relationship between listening development and strategy use. Language Teaching Research, 15(4), 435-456.

Hamamoto, Y., Harada, Y., Iyoda, Y., & Kamuro, M. (2013). 日本の大学生のリスニング・ストラテジー使用と習熟度の関係 [Correlation between the usage of listening strategies by Japanese university students and their proficiency levels]. The Japan Association of College English Teachers Kansai Journal, 15, 40-59.

Ho, H. (2006). An Investigation of Listening Comprehension Strategies Used Among English-Major College Students in Taiwan – A Case of Chaoyoung University of Technology. Unpublished master’s thesis, Chaoyoung University of Technology,Taiwan.

Hori, T. (2007). Exploring Shadowing as a Method of English Pronunciation Training. Unpublished doctoral dissertation. Kwansei Gakuin University, Japan.

Ikemura, D. (2003, May). 音声聞き取り困難の克服をめざすリスニング指導:キーワードと文脈の有効利用を考える [Listening instruction for acoustic problems: a consideration of effective usage of keywords and contexts].Paper presented at spring programme of Kansai Chapter, The Japan Association for Language Education & Technology, Osaka, Japan.

Jarvella, R. J. (1971). Syntactic processing of connected speech. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 10, 409-416.

Kissinger, E. (2017). Unit 2 Linguistics Global English. Symbols and Abbreviation. In M. Rost (Ed.), Contemporary Topics 2 High Intermediate 21st Century Skills for Academic Success, 4th Edition, USA: Pearson.

Knowles, G. (1987). Patterns of Spoken English. Hong Kong: Longman Group, U.K. Limited.

Ladefoged, P. (1982). A Course in Phonetics. U.S.: Harcourt Brace Jovanovich, Inc.

Liberman, A. M. (1970). The grammars of speech and language. Cognitive Psychology, 1, 301-323.

Lynch, T. (1998). Theoretical perspective on listening. Annual Review of Applied Linguistics, 18, 3-19.

Lynch, T. (2009). Teaching Second Language Listening. Oxford: Oxford University Press.

Murphy, J. (1985, March). An Investigation into the Listening Strategies of ESL College Students. Paper presented at the 19th Annual Meeting of the Teachers of English to Speakers of Other Languages, New York, USA.

Murphy, J. (1987). The Listening Strategies of English as a Second Language College Students. Research & Teaching in Developmental Education, Volume 4, No.1, 27-46.

O’Malley, J. M. (1987). The Effects of Training in the Use of Learning Strategies on Learning English as a Second Language. In A. Wenden, & J. Rubin, J. (Eds.). Learner Strategies in Language Learning (pp.133-43). London: Prentice Hall.

O’Malley, J. M., Chamot, A. U., & Kupper, L. (1989). Listening comprehension strategies in second language acquisition. Applied Linguistics, 10, 418-437.

Oxford, R. (1990). Language Learning Strategies: What Every Teacher Should Know. New York: Newbury House.

Rost, M., & Wilson. J. J. (2013). Active Listening. UK: Pearson Education Ltd.

Rubin, J. (1988). Improving Foreign Language Listening Comprehension. Research Report on Project #017AH70028 Sept. Washington, DC: U.S. Department of Education, International Research and Studies Program.

Rubin, J., Quinn, J., & Enos, J. (1988). Improving Foreign Language Listening Comprehension. Washington, DC: U.S. Department of Education, International Research and Studies Program. (ERIC Document Reproduction Service No.017AH70028)

Sanford, A. J., & Garrod, S. C. (1981). Understanding written language: explorations in comprehension beyond the sentence. Chichester: Wiley.

Shiffrin, R., & Schneider, W. (1977). Controlled and automatic processing: II. Perceptual learning, automatic attending, and a general theory. Psychological Review, 84, 127-190.

Stafford, M. (2009). Vital Skills for the TOEIC® Test: Listening. Japan: Pearson Longman.

TOEIC® test Worldwide Report 2012. (2013). Retrieved on 30th May 2014 from http://www.toeic.or.jp/library/toeic_data/toeic/pdf/data/Worldwide_2012.pdf

Ueda, M. (2015) Towards Effective Teaching Methods in EFL Listening for Intermediate Learners, Keisuisha: Japan.

Vandergrift, L. (1997). The comprehension strategies of second language (French) listeners: A descriptive study. Foreign Language Annals, 30, 387-409.

Vandergrift, L. (1998). Successful and less successful listeners in French: what are the strategy differences?. The French Review, 71 (3), 370-395.

Vandergrift, L. (2003). Orchestrating Strategy Use: Toward a Model of the Skilled Second Language Listener, Language Learning, 53, 3, 463-496.

Vandergrift, L., Goh, C., Mareschal, C., & Tafaghodtari, M. (2006). The metacognitive awareness listening questionnaire: development and validation, Language Learning, 56, 3, 431-62.

Vogely, A. (1995). Perceived strategy use during performance on three authentic listening comprehension tasks. Modern Language Journal, 79, 41-56.

Yoshida, K. (2002). これで身につく![You can master listening with these tips]. Power Up Listening, 2, 32-36. Technological University, Singapore.

Yuill, N., & Oakhill, J. (1991). Children’s Problems in Text Comprehension: An Experimental Investigation. UK: Cambridge University Press.

 

お問い合わせ

    お名前

    ご所属

    メールアドレス

    お問い合わせ内容